無技巧 楽器演奏術 (ふたこぶ ラクダ の巻)
ひょんな事から、トレモロアーム付き の 中古ギター を手にしたその男、これなら演奏の幅が拡がって好き勝手に、
思い通り弾けると思ったのに悪戦苦闘の連続。ハガネを作っている訳でもないのに鍛錬を、試練を苦痛だと感じなければ、
ギターの練習さえ真面目に行なっていれば、自由自在に操れると思ったのが苦楽の始まり。なんでこんなに弾けないのか、
自分の指なのに動かないのか、才能が無いのか?、「おいッ」 適性が合わないのか?、「よ〜っ」 そもそも ギター が
好きでないのか、「おいらだよっ、」 只単に トレモロアーム を曲げたいだけだったのか?、「なんだよ、話聞いてんのか?」
シンセサイザー に飽きて ギター に移行しただけなのでは?、「おいらだって言ってんだろがよ〜っ、ハイテクギター 弾きの
フタコブ だよ、」 こんなに アナログ楽器 が難しいとは、嗚呼ッ、「ラクダは 無視かよ、お前さんよか 上手いと思うがな、
ど〜よっ、」
「あなた、エフェクター 部屋に出入りしている フタコブ駱駝さん ですよね?、あなたが口を挟むと ギター の練習どころでは
なくなりそうなんですけど、」
「おいらの胸に任せときなって、なっ?、背中の ふたコブ のほうが判り易いか?、なんなら手取り 足トリ 教えてやろうか?
お前さん、ギターに慣れてないから弾けないんじゃないんか?、強い握力なんか必要ないぜ、損ならよ〜、授業料は
免除でも構わんぜ、」
「お金を取るんですか、らくださんは?、頼んでませんけど、」
「なんだよ、そこまで言うんならよ、ボランティア で教えてやるよ、何の曲が弾きたいんだよ、往年の名曲か?、最新ヒット
曲かい?、」
「自分で考えた曲が、ギター で表現できないんですが、」
「この トーシロ がよ、ナマ 言ってんじゃねえよ、そのぶんじゃ、リズム も コード も刻めないんだろ?、トレモロ でも
キュィ〜ンって鳴らしてろよ、これだから初心者は嫌なんだよ、」
「怒ったんですか ラクダさん、お帰りなら、出口なら其方ですけど、」
「乗りかかった舟だ、オイラ にも信念ってもんがあるしよ、素直な奴より教え甲斐が有るってなもんだぜ、」
「乗り掛かった、って、勝手に前足を掛けてきたんじゃないですか、ほんとに弾けるんですか?、らくださんは、」
「ちょいと その ギター 貸してみな、フッ、ジミ・ヘンドリックス ばりの奏法、ってのをよ、」
「ちょっッ後ろ足で踏みつけて、止めて下さいよ!、大事な ギター が壊れるじゃないですか! ガリガリ鳴ってるだけでしょ」
「これが究極の演奏法だよ、ひとつ為になったろ、扱いが悪いと弦が切れるけんどもよ、弦切り奏法ってのも有るけどな、
あとはよ、ギターアンプ の スピーカー に突き刺して、コレがほんとの ギターアンプ、チェーンソー で ギター を真っ二つに
切って ステージ パフォーマンスってな、これは パクリ だけどよ、そーさな〜っ、後は思いつかんな、なっ?、」
「なんなんですか、それ?、ステージ パフォーマンス が如何したんですか、如何様に?、駱駝様、」
「なんだよ お前さん、不満か?、どうせ演奏なんぞ、まともに聞いちゃいねえだろ、違うか?、」
「それは聞き捨てなりませんよ、熱心に聴き入ってくれる お客さん が殆んどだと思いますよ、」
「そ〜かな?、熱心に聞けば聴くほど CD の音、曲に ソックリ な コンサート が有るってんだけどよ、CDアルバム の音と
生演奏が全く同じなんてぇのは、先ず不可能だよ、お前等には この程度で充分だろ、面倒くさくて弾いてらんないよ、
ってな、そんな ふざけた ” バンド ” の、客を舐めた態度、姿勢のほうが問題だよな、” グループ ” か?、”演奏者” か?
ボーカル も カラオケ だったりしてな、コンサート自体が デジタル虚像処理 されてんかもよ、」
「それと コレ とは、全然 話が違うじゃないですか、」
「どーかな?、スタジオ の 録音テクニック を使った、凝りに凝った楽曲を実際の演奏で再現できないから、機械の
自動演奏に頼るのか、演奏テクニック が無いからなのか、コンサート の完成度に執着して仕方なく 演奏パク なのかは
知らないがよ、どれにしろ同じだよ、自宅で プロモーションビデオ を大音量で見聞きしてんのとな、逆に スタジオ録音 の
硬い曲でも、生演奏で ダイナミック な音を聴かせてくれる場合も、ズッコケるような下手な演奏を繰り広げる ヘタレ
ミュージシャン も居んけどよ、お前さんは、どれが お好み だい?、」
「勿論、CD並みの、クオリティー の高い、ダイナミック な生演奏に決まってるじゃないですか、」
「おめでたいのぉ〜、おまえさんは。クラフトワークってぇ、シンセサイザー を使った ドイツ の バンド がな、コンサート を
開いたんだと。開演時間になった ステージ上 には シンセ機材 は有ったが、演奏者は居らず代わりに クラフトワーク の
メンバー に似せた人形が置いてあって、シーケンス の自動演奏が始まったんだってよ、普通なら お客からの ブーイング
の嵐なのに、大喝采を受けたんだってよ、ブラックユーモア や皮肉は イギリス人 の専売特許なのに、ドイツ人 も捻くれて
るよな、イギリス人 は元々 ドイツ人 だった、民族大移動でも本質は変わらんのかね、お前さんは クラフトワーク の
無人演奏を どう思う?、ジャーマン民族の おふざけか?、」
「シーケンス 演奏会ですか?、効率の良い演奏形態、でしょうか?、ゲルマン人 は無駄を嫌いますから、」
「たァ〜〜ッ、ココ まで言ってんのに、それかよ?、不動人形 デッドコンサート の他にはな、メンバー が実際に ライブ演奏
を行なってる、楽器を弾いているにも関わらず、ステージ上が真っ暗な ”ナイトコンサート” も開かれたんだと、これはよ?」
「視覚効果を、ライブの演出じゃぁないんですか?、奇抜な アイデア ですよね、中々思いつきません、ジャーマン魂ですね」
「お、ま、え、さ、ん、は、面白いな〜ぁ、今、思いついたんだけどよ〜っ、ライブ会場に ドラムセット の シンバル だけを
置いてな、その シンバル を使って パーカッション演奏を、曲を奏でる、ってのはどうだい?、ミニマム、ミニマル な
ミュージック かな?、」
「パーカッション じゃなくて、ギター 志望なんですけど、それに 前衛音楽 は好みじゃありません、悪いですけど。もしかして
ギター の演奏法を パーカッシブ に、弦を弾くのではなくて叩け、ということですか?、タッピング を進化させて両手の指を
使え、ですか?、フィンガーボード を木琴の板に喩えて 打楽器ギター に、でしょうか?、」
「タッピング 云々は、十弦ベースギター の スティック で有るけどよ、木琴打楽ギター の アイデア は イタダキ だな、」
「えっ?、木琴堕落ギター ですか、堕落的な 木琴ギター は無いでしょ、」
「 だがく、だよ、なにが ” 的な ” だよ、おまえさん、そんなんじゃ音数を、贅肉を減らして少ない音の響きを効果的に
使って、逆に響かせない カックンガクガク の ギター を弾くなんてぇこと、考えてないだろ、」
「ギター は目一杯弾くのが 当たり前じゃないですか、音の隙間など必要ありませんよ、リズムコード を弾きながら
メロディー を、または交互に、そして効果音や アーム ベンディング も入れれば完璧です、厚みのある、拡がっていく
曲構成を目指していますから、」
「それじゃ〜、おまえさんが 2、3人 必要じゃないんかい?、ライブ で再現なんぞできんぜ、デモテープ を マルチトラック
レコーダー で作って、オーバーダビング を繰り返した凝った曲なら」 「らくださん」 「尚更だよ、お前さんの話の中にはな、
カラオケ演奏コンサート よりも深い」 「ラクダさんってば、」 「間違った考え方が含まれてんだよ、ネット の記事でも鵜呑み
にして頭が固着なのかも」 「おーい、聞いてますか〜」 「それとも重厚な クラシック の オーケストラ に憧れているのか?」
「もしも〜し」 「クラシック は和音と メロディー の美しさを、ハーモニー を聴くってんだけどな、オイラ にはよく判らんな〜っ」
「ら、く、だ、さ、ん、て、ば、さ、」 「お前さんは、おいらが喋ってる途中で横から口を、は、さ、む、な、ってんだよ!、話が
滅茶苦茶になるだろうが〜よっ、」
「ちょっと待って下さいよ、クラシック な ハーモニー など目指していませんけど、それに デモテープ も作ってません、」
「デモテープ を作ってもいないのに、何で こんな狭い部屋の四方の壁に、でっかい スポンジマットレス が立て掛けて
あんだよ、天井に 座布団 なんか貼り付けやがってよ、(ブブーッ) 天井か?、ギターアンプ からの音を マイク で取って、
レコーダー に録音のための 防音室 だろがよ〜っ、暑いんだよ、蒸し風呂並みだってんだよ、全く」 「ラクダなのに?、」
「口を挟むなて、言うとるじゃろうが〜っ」 「言葉使いが変わりましたけど」 「でだな、今時 こんな面倒な録音方法じゃぁ
なくてよ、シミュレーター でも買えよなっ、安くなったんだからよ〜っ、」
「なるべく、」
「金を掛けたくないんです、だろ?、こっちのほうが 金 かかってんじゃないんかい、リサイクル品ですから殆んど タダ です、
か?、チューブアンプ の太い音で録音できれば最高なので、ってか?、エフェクター を自作できれば ライン録り のほうが
簡単で、ダイナミックレンジ も良くって、雑音も入らないんだよ、手間と時間が掛かり過ぎな上に、デモ も ドコモ も NTT も
CODOMO も、お子様体質 も、桃の内ってな、デモ の曲が出来上がらないなら、どんな 方法 も 方式 も同じだよ、」
「君達、低俗な争い事や下品な戯言など意味が無いのですよ、音楽という文化の観点から考えた場合、ギターとは
どのように発展してきたのか、音楽シーンに深く係わり合いながら影響を与え、または理論と感情との鬩ぎ合い、
放射状に拡がった、広がりつつある現状認識の過程からも流れを滑らかに、分岐点と合流部の位置を的確に
判断して、ジャンルの違いを充分に理解し、良いものだけを取り込み、演奏技術を磨く事に尽きる。」
「誰だ、今 くっちゃベったのはよ!、カチカチ の堅い喋りなんか聴いたら眠くなるだろうが。憑依でも幻聴でもなさそうだな」
「今の言葉は天からの 思し召し じゃないんですか?、天空の啓示、黙示録 なんじゃないですか?、心して聴かないと、」
「なにが 黙示録 なんだよ、この〜っ、お前さんの 腹話術 じゃねえかよ!、ふざけたこと言いやがってよ、ネット にある
どっかの ページ を読みかじっただけだろが、ページを捲れよ、ジミーペイジ じゃないぜ、この 腹話術師!、」