ネック ベンディング 蝶番 ギター

{ 熊さん、若旦那 の グゥイター 談議 }

「するっ てぇ〜と、何かいっ、ヘッドバンギング で無くって、ネック ベンディング で ストリングス ってぇやつを

緩めて音に変化をつけようって、寸法かい?」

「その通りでさぁ、旦那、ゆるゆるっ、かぱかぱっ、と させようってことでさぁ」

「しかしなんだな、そんな改造を グゥイター に施したら、お釈迦になりはしないかい?」

「思いつきの 一品ですんで、バッタ もんを使いやして、コリコリッと」

「それでもな〜、いくら安物バッタ でも グリグリッ と加工したら、音がとんでもない方向に変わるんでないのか?」

「なるべく弄くらずに改造しやすんで、ボチボチと」

「ところで熊さん、その弄くり グゥイター とやら、どこに有るんだい」

「まだ、手元には ありやせんです。旦那」

「えぇっ?、しかしもって、何時もの妄想かい、熊さん」

「旦那〜、そんなこと言われちまったら (ブブーッ) みたいじゃないですかいな、よしてくださいや」

「お前さんは、いつもそんな与太話を肴に、一杯 飲もうとしてるんじゃないのかい?」

「またまた〜、そんなつもりは、ありやせんです。いっぱい食わせるだなんて」

「いったいぜんたい何なんだい、只の道楽、暇つぶしってなもんかい? なんの話をしているんだい?」

「妄想や与太じゃなくて、ネタ があるんですよ、若旦那」

「どこからそんなものを、パクッてきたのかね〜、そんな筈はないとは思うがな」

「まあ、まあ、聞いて下さいやし、エイドリアン・ブリュー という メリケン人 が得意としとる、技法、奏法らしいんで

やんすが、力任せに ネック を曲げたり、負担をかけて音作りに励んでるそうでして、そこから ピン ときて

頂いたものでして」

「励んでいるから ハゲ ているのかい?、エイドリアンさん なら、知っとるよ」

「さすがは、若旦那、ハゲ は余計ですがね。それなら話は はえぇや。その 力任せ奏法 だと ネック が折れたり

ギター が傷むってんで、蝶番で パコパコッ と、ほんの 一寸 角度を変えるだけで音に変化を付けられるしっ、てな

もんです。戻しは強力な バネ で ギター も傷まず、負担も掛からず、余計な機構も要らず、一石二鳥、いや三鳥

ってなもんでがすよ」

「そうかい、爽快、ところで ギター じゃなくて グゥイター じゃないのかい?」

「こりゃ 一本、とられました、流石ですぜ、若旦那、ということで後学のためにも 一本、購入してやくれませんかね」

「一本買えってか? お前さん、丁稚奉公は どうしたんだい?、自分で買えば いいじゃあないかい」

「若旦那 とあろうものが、そんな細かい事、言っちゃあ、いけませんや、ねえ旦那」

「熊さんとか自分で言ってたねぇ、ところで あんさん、どこの誰?」

「いや、あの、熊ですが」

「おーい、だれか居らんかね〜」

「へ〜い、何か御用で」

「番頭さん、こやつが、屋敷の中に紛れ込んでおったわい、ひったていーっ」

「痛っ、いてててっ、なにすんでいっ、悪代官みてーな真似しやがってようっ、腕が折れる、誰が腕を ベンディング

しろって言ったんでい、いたたた、」

「腕を折り曲げて ベンディング とはこれ如何に、ほっほっほ〜、販売行商人の ベンダー なら由としても、この私に

買えとは不敵なり、とんだ食わせ者だったわい、外に放り出してしまいなさい」

「仰せのとおり、放り出して差し上げました、ところで、あんた、誰?」

「私は、此処の若旦那だがね、番頭さんともあろうひとが、この私を知らんとは無礼であるぞ」

「知らんなぁ〜、旦那様、旦那様〜、若旦那を名乗る不埒者が鎮座しておりまする〜」

「なんだい、誰だい、この若者は? 若旦那? うちにはこんな若造など居らんぞ、ひっとらえいっ」

「はかったな〜無礼千万、私を、この私を知らんのか〜、いたたたたっ、首が、首が折れる、いつつつっ」

「最近は、なんだか知らんが、かたりものが多くて困ったものだ、なぁ、番頭さん」

「そうですねぇ、うかうか昼寝もしておられません、ところで、あなた、どなた様で?」

「貴様〜、何を申すか、わしは、ここの家長であるぞよ、無礼者めが〜」

「知りませんなぁ〜、奥様、奥方様〜、旦那様を語った不届き者めが、こやつが、こやつが〜〜」

「おやおや、如何したんですか?、騒がしいことで。何なんでしょうねぇ〜」

「そちら様は、どちらの誰?」

「貴方様は、どちらのかた?」

「そんなやつ、居たっけ?」

「あんた、どこの馬の骨?」


「うわっ、つっ、うわわわっ、グゥイタアーァァッ」

「どうしたんだい、おぃ、トンビ に油揚げ、さらわれたみてぇな顔して」

「びっくりしたぁ、八っあん と グゥイター談議 しながら ウトウト寝ちまったら、変な夢でよぉ〜」

「なんだい、どうした、そそっかしい奴だな、夢だぁ?、野良犬が首根っこ絞められたみてぇな声をって、おっと、

いけねえ、いけねえ、生類哀れみの令 で、お犬様って事だしなぁ、困ったもんだぜ、全くよぉ〜」

「途中で寝ちまったから、どこまで喋ったか判らなくなっちまったよ、それで エイドリアンさん の、

ひん曲げ グゥイター が如何したって?」

「エイドリアン さんの ひん曲げ グゥイター ってなんだい? それと今さっき、八っあん とか言ってたが、八っあん って

誰でいっ、それに、あんた誰?」

「えっ? 俺、誰だっけか?」

「ふっ、ふっ、ふぉ、ふぉ、ふぉー、まだわからんのか? わしは 八っあん ではなく、死神 じゃよ、此処に 一本の

ロウソク があるじゃろぅ、この ロウソク の長さか お前の寿命なのじゃよ、ふっ、それでじゃ、この、」

「ちょいと待っとくれ、それって 落語の死神 ってぇやつじゃないのかい?、そうは問屋がおろさねえぜ、おめえさんの

フトコロ から ロウソク が覗いてるよ」

「えっっ?、そんな筈はないと、」

ゴーン、ガィイイーン、ビイイィee〜ン

「あ痛えぇぇ、い痛うぅぅー、はかったな、わしを誰だとおもっとるんじゃ、死神 じゃぞー」

「へん!、会いてえ? だれに会いたいんだい? 大魔王様か? 胃痛だぁ、呑みすぎじゃねえのかい?、

この グゥイター で脳天かち割ってやろうか? 打音が e の音で、いい音するじゃねえか、この グゥイター も

捨てたもんじゃねえな、酒はねえが、つまみだしてやるよ! おととい来やがれー」

「いたたたたっ、死神様にたいして、あのガキ、憶えておれよー」

「死神のくせに、痛がってやがる、へん、あの野郎 ロウソク 忘れていきやがった、ドジ な奴だね〜、

この ロウソク の灯火を使って グゥイター の首の曲がりを直せるかもしれんな〜、よっしゃ、

一丁、曲がり修繕でも始めるかと、あんまり近づけても焦げちまうしと、あっ!ぃけね、ロウソク の火が消えちまった!

ということは、」

御臨終


「おい、こらっ、起きろ、八、起きろってんだよ、はち公、起きんかい!」

「うあぁ、たったったっ、し、死神!」

「なにを寝ぼけてやがんだい?、死神ってなんだい?、俺は此処の若旦那だってんだよ」

「ええっ?、わわ、若旦那?、ここは御屋敷? 幽霊屋敷?」

「なに、あわあわ言ってやがんだい? だからあれほど飲み過ぎるなといったんでぃ!」

「いや、あの〜 てへっ、 ハチ公ってったって、犬じゃないんでやんすよ、それにあっしは熊でして」

「熊 でも 犬 でも、どっちでもいいんだよ! ところでさっきの話だがな」

「へい、なんでしたでしょうか?、まさか ロウソク の話じゃぁ〜 ないでっしゃろね〜」

「なに言ってやがんのかね〜、舶来品の グゥイター の話を持ちかけたのは、そっちだろう」

「そうでした、そうでやんした、その グゥイター の首根っこをひん曲げやして、音を作ろうってんでした」

「するっ てぇ〜と、何かいっ、ヘッドバンギング で無くって、ネック ベンディング で ストリングス ってぇやつを

緩めて音に変化をつけようって、寸法かい?」

以下、ロンド ( 反復、回旋 )

ネックベンダー

ネック ベンダー

テレキャス 番町皿屋師 ギター

{ 熊八、御隠居 の テレキャス 怪談議 }

「御隠居、いるかいっ?、」

「なんだ、熊八か、今日はなんの用だい」

「御隠居〜、熊八か、は、ないでがしょう」

「てーへんだ、てーへんだっ、ってんで、この前は、息せききって飛び込んできて、大した話でもなかったじゃぁないかい」

「今日は違うんでやんすよ、西洋ビワ の 瓦版 を手に入れたんでがんすよ、見ておくんなせぃ」

「西洋ビワっていうと、西洋ナシ みたいなもんかね、ってことは お前さんは、洋ナシ、用無しってことかい?」

「御隠居〜 洒落が キツイ でがんすよ、洋ナシ でも用がねぇでもなくて、メリケン人の作った グゥイター ってえやつの

ことでがすよ、その グゥイター が載っているこの 目録 をみておくんなさいまし」

「なんだい、この 瓦版目録 は? どれどれ、随分と沢山の 西洋枇杷 の絵が載ってるねえ、新らし者好きの 熊八 が

興味を示すのも無理はないか。ところで熊八、お前さんの 言葉つづり、何だか変だよ。べらんめ〜、てやんで〜ぃ、

てーへんだー、なんて言い方、江戸弁だと思っているのかい? 浜っこは 三日 住むと ハマッコ だなんてぇ話を聞いた

ことがあるがねぇ、新らしもの、流行りものに興味を示すな、とは言わんが、べらんめぃ言葉を景気良く喋って、

宵越しの銭は持たねえだ、みみっちい事は嫌ぇ〜 だとか、なんとか、この 西洋枇杷 も本当に良いものなのかい?、

お前さん、よ〜く考えたのかい?、皆が買っているから、良いものだと思っているだけじゃぁないのかい?」

「随分と、しゃべりなすったねぇ〜 なに言ってんだか、よく判んないですぜ、それに 西洋枇杷 じゃなくて 西洋琵琶 で

がんしょ? 枇杷 なんか爪弾いたら グチャッ てゆう 音しかしませんで、そんな事よりも、この目録の中に載ってる

ストラトキャスター ってぇ グゥイター が、いい型してるんでがんすよ、よーく 見ておくんなせぃ、ほーら、ちりめん問屋 の

若女将 みてえな腰つきの、優雅な形でやんしょ?」

「お前さんは、おなごの腰しか興味が無いのかねえ、ちりめん屋さんの女将か、そういえば中々色っぽい、じゃなかった、

なんの話をしてんのかねえ」

「嫌でやんすよ、御隠居も隅におけないね〜、で、ですね、この ストラト か、レスポール かで迷っているんですが、御隠居、

どっちが良うがしょう」

「わしは、この テレキャスター というのが、良いな」

「ええ〜っ?、よりによってなんで 草鞋 が 大八車 に潰されたみてぇな、へんてこな もの選ぶんでやんすか?」

「地味で器量よしとは言えんが、個性的な形しとるじゃぁないかい、青山さんの御屋敷に仕えていた お菊さん のように

愛嬌のある姿かたちをしているようじゃ」

「青山御殿の お菊さん っていやぁ、番町皿や、いやいや、なんでもありやせん、でも若しかして、まさか 御隠居、

青山播磨様 じゃぁないでしょうね?」

「ふっ、ふふっ、ふっ、これがその最後の皿じゃよ、割れとらんだろう」

「うわわわわっ、ささささっ、さら、家宝の皿!」

「の、筈が無かろうが、そそっかしい奴じゃのう、この桐箱の中身はな、家宝伝来の 枇杷グゥイター と 巻き貝グゥイター

じゃよ、ふふっ」

「皿 でも 琵琶 でも無ぇんですかい?、ちょいと貸しておくんなさい、ほ〜んとだ、弾くと グチョグチョ 言いますねぇ、

まるで あの音みてぇだな、それに 枇杷 が半分腐ってるみたいで、匂いも似てるなぁ〜」

「これこれ、お前さん下品なこと言いっこなしじゃよ、この 家宝 枇杷グゥイター は 即身仏 の ミイラ の技法を使った

ものでな、ミイラ 取りが ミイラ になるとは、これまた如何に、いゃいゃ、しかし どうだい、中々のもんじゃろが」

「この 螺旋 みてぇな、巻き貝グゥイター って言いましたっけ? こんな薄気味悪いもの弾けるんですかね」

「弾けるわけあるめぇ、これはな、西洋風にいうってえと オブジェ という実用性のないものじゃよ」

「おぶじぇぇ? 実用性が無いものぉ〜、なんですかい、実用性のない意味ないものなんて、意味あるんですかい?」

「そうさなぁ〜、お前さんが使いもしない、弾きもしない ストラト だか レスポ だか、スポスポ だか知らんがなぁ〜

買うだけ買って、流行りものを収集してるだけなのと、同じじゃよ、なぁ、熊八」

「ちょっと待ってくださいよ、おいらが何 買おうが、勝手じゃぁ ありませんか!、なんでえぃ、御隠居なら物分りがいいと

思ってたのに、しでぇ〜や」

「まあ、まあ、そんなに ムキ にならんとも よろしい、ちょっと からかっただけじゃわい、それに しでぇ〜や、ではなくて

酷いや、だろうが、熊八」

「へ〜い、判りましたよ、御隠居、しかしもって テレキャスター でやんすか、青山様 のところの お菊さん ですか〜、

玄人好みってぇやつですか?」

「そのとおりじゃょ、シャキシャキッ とした切れのある良い音じゃそうじゃ、慣れるまでは暴れ馬のように言う事を聞いて

くれなないし、首のところの湾曲がきつくて、弾き難いそうじゃがのう」

「シャキシャキッ とでやんすか? 気性が激しくて、暴れ馬? お菊さんは おとなしい御人だと聞いてるでやんすが」

「大人しそうに見えても、実際は、小股の キュッ と切れ上がった、おっと、いかん、いかん。ということでだ、熊八

テレキャスター を買いなされ」

「テレキャス ですか〜、そうでやんすか〜〜。しかし御隠居、なんでそんなに テレキャスター を薦めるんでやんすか?」

「いや、あの〜 だな、実はもう ストラトキャスター を買っちまったんだよ、同じものじゃぁつまらんだろう、なっ?」

「えっ?、なんですって?」

「目上 のゆうことを聞いていれば間違いないのだから、なっ? テレキャスター を買えばいいんじゃ、どうせ弾けん

だろうけどな、プッ」

「この ジジィ、黙ってゆうこと聞いてりゃ、ふざけやがって、もぉ頭きた、こちとら気が みじけぇんでいっ、人のいい

爺さんだと思ってたら、とんだ肩透かしだったぜ、おいらもよくよく、お人よしだぜ全く、その ストラト ってえやつ、

こっちへ持ってこんかい!」

「そんなに、ガミガミ 怒ることもなかろうに、ほ〜れ、これじゃよ、大事に扱っとくれよっ、なっ?」

「す、ストラトキャスタ〜、これか〜、この ストラト 貰っていくぜ、どうせ弾かないんだろう、ヘンッ」

「待て待て、これは高かったものだで、駄目じゃ、あっ、こらっ、駄目だといっとるだろうが〜」

「御隠居には こんな グゥイター 勿体無いぜ、螺旋 グゥイター でも眺めてやがれ!、腕を トリル しちまうぞ、

引っぱるなよ、ストラト が壊れるだろうに、手を離しやがれ」

「あいたたたぁっ、わしの手を アーミング しよってからに〜 この罰当たりが〜、持ち逃げしよってぇ〜、これじゃと

番町皿屋敷 でなくて 羅生門 だがね〜」


「いやはやなんとも、まいったぜ全くよ、この ストラト が手に入ればこっちのもんでぃ、それにしても この色艶、

胴のところの締まり具合、たまんないねぇ〜。グチョッ とはいわねえが、綺麗な音するじゃねえか、へへっ」

「よくも持っていったな、置いていけと何度も言ったのに、よくも、よくも、わしを誰だと思っとるんじゃ、このどさくれが〜」

「わわっ、どっから喋ってんのかと思ったら、障子の枠に顔なんか突っ込むなよ、障子の張り替え、大変だったんだぞ!

それにな、置いてけなんて一度も聞いてないぜ、己が悪いんだろうがょ、御隠居ってったって、おいらと歳なんかそんなに

ちげぇねえだろうがよ!」

「まぁ、よい、よい。わしは 道楽御隠居 ではないのだぞ、このわしはだ、置いてけ掘りの住人でな、そのお堀の住徒じゃよ、

ふふっ」

「お堀? お堀って、あそこの こ汚ねぇ ドブ みてえな お堀の住人?、じゅうとぉ?、それって若しかして、落語の

おいてけ掘りってぇ やつかい?、おいてきぼりかい? ずいぶんと安直な話だなぁ〜 ビワ の話つながりで、琵琶法師の

耳なし芳一 の話でも始めるのかと思ったらよ〜 ひねりがきかないね〜」

「なんじゃと! ふふふふふっ、このわしはな、平家の落人 じゃよ本当はなっ、そのグゥイターを返さねば

耳なし芳一 にしてしまうぞ、よいのかっ」

「なんでぃ、なんでいっ、ドブ の住人の次は、平家の亡霊かよ、いやだね〜 信念がないねぇ〜、障子の枠に スッポリ と

顔がはまっていて、土壁に塗り込められた お人みたいで、何だか間抜けだよ、御隠居」

「なになにっ?、壁に塗り込められた人の様だって?、そうじゃよ、わしは、おいてけ掘りのある、

城壁の主なのじゃ、ふっ」

「それは 西洋の怪談話 じゃなかったかい? それとも お城のお姫様 だったかな〜」

「えぇーい、そんなことはどうでもよいのじゃ、今すぐ、その グゥイター を返さねば、お前さんも城壁に練り込んでっ、

てってってっ、痛っ、いたたたたっ 痛い!、だれじゃ、わしの耳を引っぱるのはーっ、いま大事な話を、」

「碁、ごっ、御隠居〜、御隠居さん、血だらけの 落ち武者 がっっ、たっ、ちっ、つっ、てっ、とっ、」

「ぎゃぁあー、平家の落人! おち、落武者ぁーー、おちっ、ち、だ、ら、け、くまっ、くくくっ、熊、熊八〜、逃げるんじゃ〜」

「ひええぇっ、ごいんきょ〜、耳は でぇじょうぶですかい、あの落武者、半分体が腐ってましたぜ、家宝の枇杷のように!」

「いま、そんな事を言ってる、ばわわわわわわいかい? ちりめん問屋 まで走るんじゃ、よいな!」

「なんで、ちりめん屋さん なんですかい?、御隠居〜」

「いいんじゃ、いいんじゃ〜」


ひとり ぽつねん と残された、平家の落武者。畳の上に放り投げられていた ストラトキャスター を静かに弾いていたそうな。


「まったくもぉ〜、なんで おいらまで怒られなくちゃいけないんですかい? 御隠居〜 いやっ、芳一っさんだったけな〜」

「皮肉をゆうな、皮肉を〜」

「ちりめん問屋さんで、ちょいと時間潰しをしようと入ったら、いきなり若女将に怒鳴りつけられちまって、なんなんでさぁ〜

着物の代金を払ってないんなら、さっさと払っちまえばいいんでがんしょ?、ツケ を溜めるだけ貯めれば、誰だって

怒りまさぁ〜ネ、」

「いやなに、若女将だったら、ちょっとぐらい待ってくれると思ったんだがなぁ〜、やっぱり お顔の綺麗な、皆に、周りに

ちやほやされていると、中身がよろしくない、器量良しは性格が きついのかねぇ〜、あんなに怒られるとは

思わんかったわい、ちょいと目の保養にと寄ってみたんだが、おー 怖かった、まるで恐怖の館だね、ありゃぁ」

「自分の借金を棚上げして、なに言ってんですかい?、嫌だ、やだ、おいらの長屋には、まだ 落武者 が居座って

いるんですかねぇ、芳一 御隠居、」

「まあまあっ、わしの ストラトキャスター が無事なら、それで構わんがな〜」

「なに、虫のいいこと言ってんですかね〜、しかしもって 落武者 も、もう居ないでがしょ、ってまだ居やがる、

おいらの グゥイター 弾いてやがる、あちゃ〜 ストラト が、ぬるぬるべとべと、ぐっちょんぐちょんで 豆腐の腐った

みてえな臭いが、此処まで漂って、臭ぁ〜」

「おいらの ストラト ってなんだい?、あれは元々わしの、わしの ストラト じゃよ、しかしなんだな、あんな腐れ グゥイター

もう要らんわぃ、熊八、お前さんにくれてやるよ」

「も〜、いい加減なんだからなぁ〜、その言葉忘れないでくださいましよっ、後でわしのじゃぁ〜、おいてけ住人じゃ、

ぬりかべ じゃっ、平家の落人じゃ、って、訳わかりませんや、もぉ〜」

「も〜も〜 牛みたいに、なんじゃい? お前さんは 牛八 かい?、しかしもって 落人 が、わしの家屋に出現せんで

良かったわい、ちょうど畳を替えたばかりだったで、お前さんの家の腐った畳の上で、腐りかけの落武者、

なに思う、ってか? プッ」

「ったく、もぅ よ〜 がすよっ、どうせ腐った畳の上で野垂れ死にでがんしょ、おいらなんか!」

「そんなに怒るな、怒るな、畳の上で死んだら野垂れ死にとは言わんわい、そうじゃろ、熊、それよかあの 落武者、

グゥイター に飽きてきたみたいじゃ、おっ!、霧のように消えおったわい、ささっ、お前さんの おんぼろ長屋 に

入るとするか」

「おんぼろ は余計ですぜ、御隠居、うわっ、畳も グゥイター も ドロドロ になって、嗚呼、どうすりゃいいんでやんすかねぇ、

とほほ、」

「わしによい考えがある、まずじゃ、たわし で良ー く 洗ってじゃな、暫し乾かし、質屋に流してしまえば良いんじゃ、

どうじゃそれで」

「質屋にで、やすか?」

「質屋で金を作ったら、お前さんの好きな お菊さん、いや、ストラト でも テレキャス でも レスポー でも買えばいいんじゃ、

そうじゃろ? 熊八、」

「そうでやんすか〜、そんなら、ドロドロ畳 を外して、タワシ で ガリリンッ、とでやんすね、よっしゃ、」

「お前さん、なに ボケ てるんだい?、そんな腐った キノコ が生えているような畳など、質屋さんが請けるわけあるまいに 」

「もうっ、テレキャスター に変えろ、ってことでっしゃろ! この ストラト を、シャキシャキ の玄人受けする、お菊さん

みてぇな グゥイター に取っかえろてぇことですね、ご、い、ん、きょ、」

「そ、こ、ま、で、は、言っ、と、ら、ん、よ、もと、わしの グゥイター が再生すればいいんじゃ、熊八のものになれば、

文句はないじゃろう、なぁ、お菊さん のような テレキャス が、お、前、さ、ん、の、も、の、に、な、る、の、も、よ、い、

こ、と、じ、ゃ、て、」

「嫌な言い方するなぁ〜、おいらのものにするって、お菊さんは ” もの ” じゃないんですがねえぇっ」

「おっと、いかん、いかん、ちりめん問屋に着物の代金を届けなけりゃならんのだ、熊八、何時までも大根を洗うみたいに

丁寧に磨いとらんで、さっさと切り上げて質屋に売り飛ばして、その金で テレ お菊 キャスター を買ってくるのじゃ、よいな」

「へ〜い、へ〜ぃ、へいへい、へへいの へィっ と、おいらの テレキャス、買って来や〜す」


「御隠居っ、ごいんきょ の 御所望 した テレキャス が、ちょうどいい塩梅に 質流れ品 のなかにありやしたぜ、

胴の色が赤黒くて ちょいと おいらの趣味じゃねえですが、えらく安かったもんで買っちまいました、どうですこれ」

「なかなかのもんじゃな、うむ、お前さん、ちょっくら 弾いてみてくれや、なっ」

「弾き難いでやんすね〜、なんじゃこりゃ、それに、どこかの ネジ が緩んでいるみたいで、変な音がしますぜ、御隠居、」

「ネジ が ユル んでる、か、ネジ穴 が ガバガバ になっているのかもしれんなぁ〜、そんなことだろうと思って、ほれっ、

これじゃよ、この爪楊枝をだな、ユルユル の ネジ穴 に差し込んで固めてしまえば、ビビリ音 もしなくなるじゃろうて、ふっ、

やはり キツメ のほうが良い音を奏でるものじゃて、なんでもそうだがのう、ふふっ、」

「その フトコロ から取り出した爪楊枝、さっき おいらの帰りを待ちながら御隠居が 口 に咥えてた やつじゃないですかい、

もぉ、汚ねえなぁ〜、ようがすよ、もぅっ、ネジ を外してっと、穴ぼこ に爪楊枝を捩じ込んでっと、ネジ を締め直して

そして弾いてみればと、濁りは無くなったけど やっぱし、弾きにくいでやんす、」

「練習しているうちに、慣れるて。弾きにくい グゥイター を弾き熟すのが、いいんじゃよ、しかしなんだか、首や胴が

粘っているような 指板 が糸を引いてるような、なんだか ぐにゃぐにゃ してきたような、その 赤黒い胴の色 も

西洋の腸詰めの サラミ とかゆう食い物に似ているような、縦笛を体の垢で作ったとゆう変な話が書物に載っておったが、

その テレキャス、木材でなくて、なにか別のもので出来ておるのかの〜、その グゥイター も呪われておるのかの〜」

「ような、ような、って何なんですかい? サラミ って何ですかい? 呪われているって、どうゆうこってす? ってなんだか

納豆みてえに、粘ってきやがった、なんなんでぇ、これ、ぐにゃついてきやがった、わたたたたっ、指が粘って、

へばり付いて、てってっ」

「そうか、その グゥイター も、怨念か」

「えっ?、なんですって?、」

「はてさて、人肉グゥイター か?、それとも 腐乱テレキャス かのぅ? 化膿楽器 だったりしてなぁ〜、ふふっ、プッ、

いやはや なんとも厄介じゃのう〜、古来から脈々と続く、とんでもな〜い 阿漕 な アコギ だったりして、おっと

ソリッド グゥイター じゃったっけなぁ〜」

「なに言ってやがんでぇ! ごたごた 訳わかんねぇこと喋くりやがってよう! もぅ、」

「そ〜んなに、怒るな怒るなて、血を吸う写真装置 じゃのうて、吸血グゥイター かのう〜、それとも 寄生 音奏器

だったりして、お前さんも つくづく縁がないのう〜」

「なんだか恐くなってきやした。曰くがありそうな、薄気味悪〜い テレキャスター だったりして、喋ったりするんですかい?」

「さて、どうじゃろうね〜、風来坊 の お前さんが、曰くがあるなんてぇ言葉、よく知っとるね〜 わくわく わし いわく、

中々見直したわい、なぁ〜、単細胞かと思っとったが、おっと、いかん言い過ぎたわい、だったりして、」

「煽てたって駄目ですよ、ご隠居、サラミ色 の 人肉 内臓 吸血 寄生 腐れ グゥイター だろうが、おいらのもの

ですからね、へんっ」

「そうかい、そうかい、帥はその グゥイター と しょもうすものが、腸詰め 人肉挽肉汁 発酵寸前 多細胞 幽鬼生命体

お菊様 の 腐乱死体 煮凝り固め 怪奇怨霊 楽器 でも、かまわぬと申すのか、」

「そんな、変な言い方しても駄目でがんすよ、あれやこれやと、へんてこな言葉を並べたてても、こちとら ちい〜とも

構いませんて、」

「我 思う、故に我あり、拙者の申すものなりて、自我との葛藤に帥の振舞いに我なんじとて、許したもうぞえ、

御託の五択とて帥の所存の言う異なれど、手前勝手な己の言い分、とくと肝に命じよ、宜しいか、よきにはからへ、」

「また始まったぜよ、どこで聞きかじってきたか知らねぇでやんすが、難しそうなこと言っても 駄〜目、馬太 臼曰 で

やんすよ〜、悪代官でもあるまいし、年貢も納めませんでっせ〜 使い方間違ってますぜ〜 お前に言われたくないって、

それは、こっちの言う台詞ですぜ〜 だいたい お前に〜 なんて言った時点で、お里が判りまっせ〜」

「こら〜!、わしは お前さんに、お前に〜 なんてこたぁ、言っとらせんぞ、それに 御里が知れる と、ゆうんじゃ、」

「も〜 与太話は、これくらいに しときましょうや、ねぇ、あ、く、だ、い、か、ん、さ、ま、〜、」

「お、あ、い、に、く、さ、ま〜、うるさいわい、ちょいとまてよ、どうも見た目が変だと思ったら、この テレキャス、

ひと回りほど大きいようじゃなぁ〜、熊八、お前さん、大工の端くれなんじゃから、ちょいと ノミ で表面を削ってみてくれ」

「嫌でがんすよ〜、傷が付いちまうじゃぁないですかい、」

「そんな、ヌルベタ グゥイター で良いのか? 熊、御隠居のゆうことは聞くもんじゃて、ほれ、コリコリッと削ってみろや」

「わかりやしたよ、ちょいとだけでやんすよ。おっ、上っ面になにか ホコリ だか垢だかなんだか こびり付いてますぜ、

さっきの御隠居の話じゃぁないですが、まさかこの テレキャス、人間の垢で出来てるんじゃぁ、ないでっしゃろね〜」

「どうじゃろうねぇ〜 それならそれで、高く売れるかもしれんな〜」

「えっ?なんですって?」

「いや、別に。 ほれみい〜、上っ面になにか被さっておったわい、鼻っ面の紋章からして舶来品の フェンダー社 の

ものじゃな、ふふっ、腐れ グゥイター を穿って、掘り出し物とはこれ如何に、これが本当の、」

「さっきからなに、ニヤニヤ しながら、ブツクサ言ってんでやんすか?、それに フェンダー ネツチ ってなんでやんすか?」

「そうじゃ、ネチ、ネチッ、とだな、いや違う、こら〜!、ひとが喋り終らんうちに口を挟むとは、話の腰を折ることじゃて、

もぅ、 粋な洒落を言おうとしておったのに。それに ネツチ ではなくて 社 じゃぁ〜、お前さん、いい加減、言葉遊びは

やめんか〜い、」

「それは、御隠〜居で やんしょ〜」

「まあええわい、垢を削り落としたら 束子 で グリグリッ と洗って、雑巾で良〜く磨くのじゃ、よいな、」

「粋な、洒落ねぇ〜、そうかこの グゥイター こ汚ねぇが、実際は稀少な ヨダレ ものの高価な テレキャス ってな

もんでやんすね?」

「さぁ、どうじゃろう、メリケン渡来品 を有り難がるのではなくてじゃ、我が日本製でも フェルナン さんやら グレ さんやら

ムーン さんやら、よいものは たっくさんあるんじゃよ。そんなものには目もくれず、嘆かわしいのぅ」

「磨き上がりましたぜ、御隠居さん、試し弾きしてみますんで。おっ、さっきとは大違えな、歯切れのいい音になりやした、

こりゃ、めっけもんだぜ、」

「ふっふっふっ、良かったのぅ、さっさとその 西洋琵琶 を此方に渡すのじゃ、さもなくば お前の耳を千切り取ってしまうぞ、

よいのか?」

「いてっ、いててて、痛い!、おいらの背中にまわって後ろから、耳なんか掴みやがって、いい加減にしろよ、御隠狂、

いや、ご〜いんきょ! 腐れグゥイター じゃなくて、お高い舶来品だと判った途端に、変な戯言、言いやがって、

また何処かに売り飛ばすつもりなんでやんしょ!?」

「いつっ、痛い、いたたたっ、遺体、痛っ、誰じゃ、わしの両耳を力任せに後ろから引っ張る奴は?!、熊八! わしの

後ろに誰かが、」

「ごいんきょ〜、御隠居の両耳を、平家の落武者が、後ろから掴んでやんす!、その後ろにも平家の落人が

数珠繋ぎになって、わんさか行列を作ってまさぁ〜っ、落武者並びの人間列車のように、両耳を引っ張ってますぜっ!、

皆、血だらけなのに、なんだか面白いでっせ〜、これがほんとの 大名行列 御一行様、一列渋滞 ってか?、」

「こらー、笑っとるばやいかー、耳が千切れるっ、っっいつつっ、痛ーっ、熊!、落人を振り払ってくれっ、頼む、たのも〜」

「御隠居、バチが当たったんでやんすよ〜、御隠居が先頭で、その後ずらりと落武者が貨物列車のように並んでまっせ〜、

人肉列車か、妄想列車か、はたまた落人の 戯れ おたわ群れか、落武者の影武者か、てかっ、プッ、御隠居の お持ちに

なっていた ストラトキャスターってまさか、どこからか パクッ てきたんじゃぁないでしょうねぇ、そ〜じゃなけりゃ、

人肉落人列車 なんか、出現するわけ ありやせんて。御隠居さんの両耳は平〜気ですけど、落人の方々、あんまり

引っ張ると、腐りかけている両耳が 何処かに飛んでいってしまいますよ、」

「耳が、ミミが 千切れる!、グゥイター しか弾いとらんのに バチ など当た、たたたっ、あいたたっ、熊、くくくくっ、くくくっ、

くっ、くっ、くっ、くまッ、」

「なに笑ってんでやんすか?、なに言ってんだか、皆目 見当つきませんですぜ〜」

「一生の お願いじゃ、なっ、たたたっ、頼む!、落武者の列をっ、どけてくれー」

「今までに 一生の お願い、って何度言ったんでやんすか〜、一生に一度の お、ね、が、い、とは言っとらん、だなんて、

そんなもん通りませんでっせ〜、落武者に、耳を千切られ、聞く耳 持たん、とはこの事か?、ってか。 さっき、おいらに

どくされが〜 とか言ってましたよねぇ、其方に居られる落人の方々に、ど、く、さ、れ、どかんか〜い、って言ってみて

下さいましよ、」

「そんな、腐り人 に そんな失礼な、いや、高貴な方々にそのような事など、言え、いえ、いっ、つっ、つぅ〜、い痛うぅ〜、

ど、どさくれ とは言ったが、どくされ などとは言っとらんて、」

「落武者の方々、この御隠居、そちらさんを、ど、さ、く、れ、どきやがれ、殺すぞ、おっと、もうとっくに死んでるか〜、

ですって、」

「そんなこと言っとらんがねーっ!、この馬鹿者〜!」

「馬鹿者〜?、馬鹿者かぁ〜、馬、鹿、者、馬鹿者、と。野次馬、や、じ、う、ま。鹿角、ろっかく、ろ、っ、か、く、野次馬、

ってか〜?、いいこと思いついたぜ、へへん、おいらも意外に馬鹿じゃねえなっ、ちょっくら そのまま、しばら〜く、

お待ちねがって下さいや、御隠居っ、」

「くま、熊八、馬鹿者 呼ばわり鹿たこと、いや、もとい、馬鹿 呼ばわりしたことは すまんかった、変な事考えんで、

今すぐ纏わり憑いている 発酵 落人 を、なんとかしてくれぇ、臭くてたまらんわぃ!、お前さん何時の間にやら、鼻の穴に

綿など詰めおってからに〜」

「はっこう おちゅうど、なんて言っちまって知りませんで〜、洒落の通じる方々じゃぁ ないと思いますがねぇ〜、

おいらが、鼻に綿ぁ 押し込もうと勝手でがんしょ、ちょいと用が有りやすんで、ごめんなすってよっ」

「こっ、こらー、どこ行くんじゃ〜、見捨てる気かーっ、」


「御隠居〜、お、待、た、せ、っ、おっ!、落人の方々、まだ居られますね〜、ごいんきょっ、まるで 即身仏 みたいで

がんすね〜」

「おのれ〜、きっちり耳を掴まれて感覚が無いわい、この恨み、はらさでおくべきか〜、」

「おやっ?、まだまだ元気じゃぁ ないですかい、さすがは御隠居、年季が違いまさぁねぇ〜、」

「くまはち、おめえさん、まさか、面白いものがあるとかなんとかぬかして、鹿の角で町人を引っ掛けて、野次馬のごとき

このわしを、見世物にしようと企てておるのじゃろう、野次馬の馬と鹿の角で、馬、鹿、者、じゃろう、ひねりがないぞょ、」

「残念、で、し、た、御隠居、農耕馬と広場に たむろしていた子鹿を連れて参りました、ほーら、可愛いもんでがしょ〜、」

「ほほぅ、中々、愛らしくて可愛いものじゃのぅ、おなごじゃと 二十歳過ぎの ころあいじゃな、トシがいったのも油が

のっていて良いものじゃがのう〜、」

「こらー、そんなこと言っとるばやいかー、なんとかせぃ!、っていう場合じゃないんですかねぇ〜、即身ご、い、んきょ、」

「無の境地じゃよ、熊八、落武者殿 を後ろに従えて力が湧いてきたようじゃ、ちいとも痛くなど ありゃせんわい、ふっ、」

桜田門外 長屋編