ソフトウェア〜ズ ガラス窓の中の林檎
1990年以前のパソコンには碌なものが無かった。アップル社の Macintosh が出始めて一般に知られるようには
なったが、それまでは物好きが使う訳の判らない お高い計算機でしかなかった。某大手国産メーカー の販売していた
センス の欠片もない筐体、眼が痛くなるような緑色や黄色の チンケなモニター表示、” 独自” の OS を使った
使いづらい ワープロ機能 しかない高価な計算機には、なんの興味もなかった。何でも出来る魔法の機械のような
ふれこみ で販売しておいて、実際に目にした パソコン の内容の落差には ビックリ。販売されている方の態度が
「売ってやる、ありがたいと思え」 と、まるで殿様商売の様。テレビCM を山のように流したおかげで日本のパソコン の
代名詞にはなったが、内容が酷すぎた。余りにも判りにくい インターフェイス、頭の硬い技術者が考え出したような
迷路のような構成。それこそ誰にでも使えるような パソコン を作るなど、日本人には絶対不可能、そもそも そんな
考えが浮かばない、柔軟な発想ができない。「見て感じるだけでよい」 ではなく 「マニュアルを見て考えろ」
「コマンドライン位は覚えてね」 という考えでは、さもありなん。パソコン (個人的な、私的な、計算機) は、今まで
繁雑で手間の掛かる面倒な作業を、間違いなく簡単に終わらせる事のできる道具なのに、一部の機械好きにしか
判らない ヘンテコ仕様 にしてしまう迷走ぶりには脱帽です。日本独自仕様パソコン が消滅して良かったですね。
アップル社は、Macintosh パソコン を販売する前に、低学年の子供達に使ってもらって、どこが使いにくいのか、
判りづらいかを調査してから販売したそうな。目の前にある テレビのような機械 を前に、言いたい放題の子供達。
判らないものは判らない、こんな事をしたいのに、出来ないのは何故?と、素直に不満をぶつける その頭には、
虚栄心 も 知ったかぶり も 固定観念 も存在しない。子供にも素直に受け入れられる概念を持った計算機が、
誰にでも使える パーソナルコンピューターの基礎 になったそうな。誰でも使える パソコン なんて つまらない、
私にしか、俺にしか判らない、扱えないマシンのほうが面白いのに、という方が たまにおられるので、どうして? と
質問すると 「自尊心を満足させられるから」 との御返答を聞いて、私は爆笑してしまった。
たかが パソコン を扱っているだけなのに随分お手軽な考えだとは思ったが、そんな事を考えている位なら
使いやすい ソフト のひとつでも作って下さい。自分にしか操作できない パソコン、私にしか操れない スポーツカー、
俺しか知り得ない ノウハウ、などと 思い込んでいると、そこから何も発展しないし客観的に物事を判断できなくなる。
そんな事で 意固地 になるなど下らないし、時間の無駄。
アップル社の創設者 スティーブジョブス は理想を追求する完璧主義者だったそうな。パソコン の仕様はもとより
デスクトップ や筐体の見た目に異常に拘った。アップル社 を追放された後、NeXT社 を立ち上げたが、生産効率を
無視し、人件費や会社の ロゴデザイン料 に湯水のように資金を使い、オフィスデザインイメージ を重視したやり方は、
やりたい放題の、駄々をこねている子供のようだったそうな。子供のような心を持った スティーブジョブス というよりも、
何でも自分の思い通りにならなければ気が済まない、幼児的な面が出ただけなのだそうな。生産技術者が無謀だと
忠告しても、聞く耳を持たない スティーブジョブス。アップル社を立ち上げ、大成功した プライド と自信、そこに
幼児性が混ぜこぜになったような 大人子供 の様。自分の空想したものを具現化するためなら、どんな代償でも払う、
それで会社が傾いても構わない、などと考えているような経営者の下で働いている者は堪らない。
実際は、スティーブジョブス を神のように崇めていた投資家の資金を注ぎ込み、スティーブジョブス 自身の フトコロ は
ちっとも痛まなかったそうな。流石は スティーブ君、何処かの国の官僚の様。出来上がった製品は、世にも不思議な
真っ黒 30cm 四方の マグネシウム合金製マシン だった。強度的に貧弱な プラスティック など使わず、大変な
手間と技術、膨大な コスト が掛かった直角平行立方体。成形型からの はずれシロ を無視した強引な設計。
マグネシウム合金の厄介な特性。四角い筐体に合わせなければならなかった新設計メインボード。
内部のネジ 一本にまで拘った、妥協を廃した正気とは思えないほどの凝り様。その NeXT Cube 、今 観ても
非常に美しい。(えっ?) 生産コストを無視した高価な Cube 型パソコン (ワークステーション) は、新しく開発した
先進的な OS で動いていたそうな。当然のこと、デスクトップ は非常に洗練されていて小粋な アイコン が並ぶ、
何ものにも似ていない見るものを圧倒する、繊細で エレガント な デザイン だったが、発売日に間に合わせるために
1分間も持続して動いてくれないような、バグ だらけの試作 オペレーティングシステム だった。理想と現実が余りに違う
にも係わらず、カリスマ のような パフォーマンス でその場を乗り切った スティーブ君、実際の技術的な事は サッパリ
判らなかったそうな。技術者としてではなく、勿論、経営者でもなく、あれこれと空想 (妄想?) したり、
次世代コンピューター の概念を考えたりしているのが相応しい人だそうな。